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東京地方裁判所 平成10年(ワ)11453号 判決 2000年3月23日

原告

株式会社親和製作所

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

松本直樹

右補佐人弁理士

【B】

被告

フルタ電機株式会社

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

高橋譲二

右補佐人弁理士

【D】

主文

一  被告は、別紙一「物件目録1」及び同二「物件目録2」記載の各装置を製造し、販売してはならない。

二  被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項の各装置を廃棄せよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、生海苔の異物分離除去装置に係る特許権を有する原告が、被告に対し、被告の製造販売する海苔異物除去機が、原告の特許発明の特許請求の範囲に記載された構成要件を文言上充足するか、又はこれと均等であることを理由に、その技術的範囲に属すると主張して、特許権に基づき製造販売行為の差止等を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。また、本件特許権に係る明細書(甲二)を、「本件明細書」という。)を有している。

(一) 発明の名称 生海苔の異物分離除去装置

(二) 出願年月日 平成六年一一月二四日

(三) 出願番号 特願平六‐三一五八九六

(四) 登録年月日 平成九年六月二〇日

(五) 特許番号 第二六六二五三八号

2  本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び同2の記載は次のとおりである(以下、これに記載された発明を、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」といい、これらを「本件特許発明」と総称する。)。

【請求項1】「筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し、この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。」

【請求項2】「前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜にしたことを特徴とする請求項1の生海苔の異物分離除去装置。」

3  本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は、次のAないしEの構成要件に分説できる(以下、それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。

A 筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し

B この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし

C この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに

D 前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする

E 生海苔の異物分離除去装置

4  本件特許発明2の特許請求の範囲の記載は、次のF及びGの構成要件に分説できる(以下、それぞれの構成要件を「構成要件F」などという。)。

F 前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って下がり傾斜にしたことを特徴とする

G 請求項1の生海苔の異物分離除去装置

5  被告は、平成一〇年ころ、別紙一「物件目録1」の構成を有する海苔異物除去機(以下「被告製品1」という。)の製造販売をしていた。また、被告は、それ以降現在に至るまで、別紙二「物件目録2」記載の構成を有する海苔異物除去機(以下「被告製品2」という。また、被告製品1と同2を合わせて、「被告製品」と総称する。)の製造販売をしている。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  被告製品が本件特許発明の構成要件を充足するか。

(一) 原告の主張

(1) 被告製品(被告製品1と同2は、回転板のはみ出しの有無が違うだけで、各構成要件の充足性についての違いはない。)は、次のとおり、本件特許発明1の構成要件AないしEを充足し、その技術的範囲に属する。

ア 被告製品のタンク側壁1を側壁として構成されているタンクが「筒状混合液タンク」に、タンク側壁1の下方部が「底部周端縁」に、底板2のうちで受け皿の下に入り込んでいない部分と選別ケース6の外縁部の一部(外周表面)とが「環状枠板部」に、それぞれ該当する。また、底板2の外周が「環状枠板部の外周縁」であり、ここにタンク側壁1の下方端が「連設」されている。

したがって、被告製品は構成要件Aを充足する。

イ 被告製品においては、底板2のうち受け皿の下に入り込んでいない部分と選別ケース6の外縁部の一部(外周表面)とで「環状枠板部」が構成されており、その内側の円周の縁が「環状枠板部の内周縁」に当たる。また、回転盤3が「第一回転板」に、隙間4が「僅かなクリアランス」に、それぞれ該当する。そして、被告製品の回転盤3が右の環状枠板部の内周縁の内側に入っていること(被告製品2では回転盤3の外周が選別ケース6より若干はみだしているが、回転盤3全体としては内周面内に内嵌めされているといえる。)、回転盤3と環状枠板部の内周縁とは隙間4を介していること、底板2と回転盤3とは、多少の高低差はあるが、ほぼ同一の水平面上にあることから、これらは「環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし」ているといえる。

したがって、被告製品は構成要件Bを充足する。

ウ 被告製品の回転盤3の下方にあるギャモーターが「駆動装置」に該当し、これによって回転盤3はその軸心を中心として回転可能となっている。

したがって、被告製品は構成要件Cを充足する。

エ 被告製品の異物排出口5が「異物排出口」に該当する。また、被告製品の異物排出口5は二枚の回転盤3の間に位置しているが、構成要件Dにいう「底隅部」とは、回転板より外側にあることを示しているから、タンクの「底隅部」に設けられているといえる。

したがって、被告製品は構成要件Dを充足する。

オ 被告製品が「生海苔の異物分離除去装置」であることはいうまでもないから、構成要件Eを充足する。

(2) 被告製品は、次のとおり、本件特許発明2の構成要件を充足し、その技術的範囲に属する。

ア 被告製品の回転盤3は、周縁に向かって段を持ちながら下がり傾斜となっているから、構成要件Fを充足する。

イ 被告製品が本件特許発明1の生海苔の異物分離除去装置であることは前記(1)のとおりであるから、被告製品は構成要件Gを充足する。

(3) したがって、被告が被告製品の製造販売をする行為は、本件特許権を侵害する。

(二) 被告の主張

(1) 被告製品が生海苔の異物を除去する目的を有する装置であること(構成要件Eの充足)は認めるが、その余の構成要件の充足性は否認する。

(2) 被告製品は、以下に述べるように、構成要件Bを充足しない。

ア 特許請求の範囲の文言や、生海苔がクリアランスを通過して下方に流れていくという本件特許発明1の作用効果に照らすと、構成要件Bの「略面一の状態で」とは、ほぼ一つの水平面上に環状枠板部と回転板とが存することを、「クリアランス」とは、環状枠板部と回転板との間に存して、環状枠板部と回転板とを内外に分かつ隙間のことをいうものである。また、クリアランスは、水より比重の大きい海苔が流出し得るよう、垂直方向であることを要する。さらに、「介して内嵌めし」とは、順次外から内に向かって、環状枠板部、クリアランス及び回転板が存し、環状枠板部と回転板とがクリアランスを間においてその内外に位置して設置されていることを意味するものであって、一方が他方の上に覆い被さっていたり、下に潜り込んだりすることのない構造であると解するのが合理的である。

イ これに対し、被告製品においては、回転盤3が底板の上部に位置し、それぞれの一部が互いに重なり合っているから、「略面一の状態」にあるとも「クリアランスを介して内嵌めし」たともいえない。また、回転盤3と選別ケース6の間の隙間4は、垂直方向でないし(被告製品では、斜め上向きに設けられた隙間4から、吸い込みポンプ7によって強制的に海苔を排出させているのである。)、これを間に介して環状枠板部と回転盤3とが内側と外側に分かたれているということもできないから、「クリアランス」に該当しない。

ウ 原告は、選別ケース6の外周縁の表面が環状枠板部に含まれ、これが環状枠板部の内周縁に当たると主張するが、本件特許発明1の特許請求の範囲の「板部」という文言は一定の厚みを持った平たい構造を意味しているから、厚みを観念できない表面なるものが環状枠板部に含まれるという原告主張は、特許請求の範囲の解釈として不自然かつ不合理である。また、「内周縁」とは内側の表面であるから、選別ケースの外側方向の空間に接する外周面がこれに当たるという原告主張には根本的な誤りがある。さらに、「内嵌め」とは、環状枠板部の内周面よりクリアランスの幅の分だけ内側に回転板の外周縁があることを必須の要件とするものであるから、回転板の外周縁が環状枠板部の内周縁と重なっていてよいとする原告主張は不合理極まりない。

(3) 右のとおり、被告製品が構成要件Bを充足しないことは明らかであるから、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属さない。

2  被告製品が本件特許発明と均等であるか。

(一) 原告の主張

仮に、被告製品の構成と構成要件Bの文言とが異なるとしても、次のとおり、被告製品は本件特許発明と均等である。

(1) 本件特許発明の本質的部分は、回転板の外周の環状スリットを利用して、その動きをもって海苔を通過させ、それを通過できない異物から分離させるところにある。回転板円周に位置する環状スリットを使うという発想は先行技術として全く存在しなかったものであり、本件特許発明は、異物除去機として実に革新的、画期的なものであって、被告製品は本件特許発明の画期的なポイントを盗用している。

被告製品が構成要件Bの文言と構成上相違している点は、スリットの構成(方向)が異なることや、回転板に僅かな重なりがあるため「内周縁内に」「内嵌め」という言葉に該当しないことにすぎず、これらの異なる部分が本質的部分でないことは明白である。

(2) 被告製品における構成であっても、スリットを使って効率的に異物を除去するという本件特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するといえる。

(3) 回転板円周部のスリットを被告製品のような形にすることは設計上の微差であり、その製造時に容易に想到することができる。

(4) 回転板の円周のスリットを利用することが本件特許発明の要件であり、その出願当時においてこれに該当するものは存在していなかったから、被告製品は、当業者が右当時の公知技術から容易に推考することができたものとはいえない。

なお、被告が先行技術として主張するものは、海苔洗浄機であって、スリットを利用して海苔を通過させるものではなく、本件特許発明とは全く異なるものである。

(5) 本件特許発明の出願及び審査の経過において、被告製品のような構造のものを意識的に除外したなど、均等の成立を妨げる特段の事情は存在しない。

(二) 被告の主張

(1) 本件特許発明は、従来の装置においては、単に分離孔を用いて生海苔と異物を分離する構造となっていために、分離孔に異物が蓄積して目詰まりを起こし、これを排除すべく洗浄装置を別途設ける必要があったという、従来技術の不都合を解消するために発明されたものである。そして、右不都合を解消する手段として特許請求の範囲に記載された構成を選択したことにより、比重の異なる生海苔と異物が遠心力により分離され、比重の大きい異物がタンクの底隅部へ集まる一方、比重の小さい生海苔はクリアランスを通過して下方に流出するという作用効果が生じるのである。したがって、環状枠板部、クリアランス及び回転板の構造並びにこれら相互の位置関係が右の作用効果を果たす上で決定的な役割を果たすことは明白であるから、これが本件特許発明の本質的部分である。だからこそ出願人も、構成要件Bにおいて、特許請求の範囲に、「内周縁内に」、「略面一の状態で」、「僅かなクリアランスを介して」、「内嵌めし」などという詳細な記載をしてその技術思想を明らかにしたのである。

(2) これに対し、被告製品では、回転盤3が底板2の上部に覆い被さった位置にあり、「略面一」とも「内周縁内」ともいえないため、渦の力によって生海苔と異物とを十分に分離することができない。被告製品における異物の除去は、生海苔と異物の比重の違いを利用するのではなく、隙間4を通過できない大きな異物を生海苔と区別するという方法で行われるのであって、隙間4を通過した小さな異物は海苔の成果品に混入することになる。そして、被告製品では、吸い込みポンプ7の働きによって隙間4に生海苔とともに異物が集まり、目詰まりが生じるので、逆洗ポンプ8の働きにより断続的に隙間4を通じて水をタンク内に送り込んで目詰まりを解消させている。この逆洗ポンプ8は、従来技術で不都合とされていた洗浄装置にほかならないから、被告製品が本件特許発明と同一の作用効果を奏していないことは明白である。

(3) また、被告製品では、隙間4が斜め上方に向けられているので、生海苔がこれを通って下方に流れることはない。被告製品では、吸い込みポンプ7の力によって強制的に生海苔を吸い込んでいるのであって、この点でも本件特許発明と同一の作用効果を奏しているとはいえない。

(4) さらに、被告が本件特許発明の特許出願前である昭和五二年ころから製造販売してした「フルタ洗浄機SJ‐6M」には、回転板の円周の環状スリットを利用して生海苔を通過させるという技術が用いられている。これに加え、分離孔やスリットを利用してその孔の径やスリットの幅より大きな異物を除去する技術も公知であったことからすると、当業者は、本件特許発明の出願時において、これらの公知技術に基づいて被告製品を容易に推考することができたといえる。

(5) したがって、本件においては、均等は成立しない。

第三争点に対する判断

一  争点1(被告製品が本件特許発明の構成要件を充足するか)について

1  被告製品が構成要件E(生海苔の異物分離除去装置)を充足することは、当事者間に争いがない。

2  本件明細書(甲二)の記載内容に照らして、別紙一「物件目録1」及び同二「物件目録2」の構成を本件特許発明の内容と比較すると、被告製品は、次のとおり、構成要件A、C及びDを充足すると認められる。

(一) 構成要件A(筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し)について

被告製品においては、タンク側壁1を側面とし、底板2及び回転盤3を底面とする上方開口の直方体状の容器が「筒状混合液タンク」に、タンク側壁1の下方端が「筒状混合液タンクの底部周端縁」に、底板2のうち選別ケース6の下に入り込んでいない部分が「環状枠板部」に、底板2のタンク側壁1側の端部が「環状枠板部の外周縁」に、それぞれ該当する。また、タンク側壁1の下方端と底板2のタンク側壁1側の端部とが「連接」されていると認められる。

したがって、被告製品は構成要件Aを充足する。

(二) 構成要件C(この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに)について

被告製品の回転盤3が「第一回転板」に、回転盤3の下方に図示されたギャモーターが「駆動手段」に、それぞれ該当する。そして、この回転盤3が、軸心を中心として適宜ギャモーターによって回転可能とされているということができる。

したがって、被告製品は構成要件Cを充足する。

(三) 構成要件D(前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする)について

被告製品の異物排出口5が、「異物排出口」に該当する。

本件特許発明1において、異物排出口の設けられる位置は「タンクの底隅部」とされているが、本件明細書に記載された本件特許発明1の作用(「第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側、即ち、タンクの底隅部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。このとき、第一回転板は回転しているため、前記クリアランスには生海苔が詰まりにくいものである。」)に照らすと、右の「底隅部」とは、タンクの底面のうち、回転板及びクリアランスの外側となっている部分を意味すると解するのが相当である。そうすると、被告製品の異物排出口5は、「タンクの底隅部に」「設けた」ものであると認められる。

したがって、被告製品は構成要件Dを充足する。

3  構成要件B(この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし)の充足性について、検討する。

(一) 右2(一)及び(二)のとおり、被告製品においては、底板2のうち選別ケース6の下に入り込んでいない部分が「環状枠板部」に、回転盤3が「第一回転板」に、それぞれ該当する。

(二) 隙間4は、生海苔が水とともにタンクの外へ流れ出ていくための、回転盤3の縁部にある幅の狭い開口部であるから、構成要件Bの「僅かなクリアランス」に該当する。

この点につき、被告は、本件特許発明1にいうクリアランスは垂直方向のものに限られると主張する。しかし、特許請求の範囲にはクリアランスの方向につき何らの限定も付されていないし、また、クリアランスの方向いかんにかかわらず右2(三)記載の本件特許発明1の作用を奏することができると解されるから、被告の右主張は採用できない。

(三) 構成要件Bは、環状枠板部と第一回転板との位置関係につき、(1)第一回転板が環状枠板部の「内周縁内に」あること、(2)これらが「略面一の状態で」あること、(3)第一回転板が環状枠板部の内周縁内に「クリアランスを介して内嵌め」されていることを要件としている。

(四) 右(三)のうち、まず、(2)にいう「略面一の状態」とは、第一回転板を回転させたときにタンク内の混合液に渦が形成されるという本件特許発明の作用(右2(三)参照)や、本件特許発明の実施例の図面(甲二)においても環状枠板部23・24と第一回転板51との間に相当の段差が存していることに照らすと、筒状混合液タンクの底面を形成する環状枠板部と第一回転板とがほぼ同一の水平面上にあることを意味するものであるが、ある程度の高低差があることを妨げるものではなく、環状枠板部と回転板との位置関係が渦の形成を妨げるような構成になっている場合を除外する趣旨であるということができる。

そして、被告製品において、回転盤3を回転させるとタンク内に渦が形成されると認められることや(乙一)、右の実施例の図面と別紙一及び同二の各物件目録の図面との比較からしても、被告製品の回転盤3と環状枠板部(底板2のうち選別ケース6の下に入り込んでいない部分)は、「略面一の状態」にあると認めるのが相当である。

(五) 次に、右(三)の(1)及び(3)についてみると、「内周縁内に」及び「内嵌め」という特許請求の範囲の文言からして、環状枠板部の最も内側(軸心に近い側)の部分よりも更に内側に、第一回転板の最も外側の部分があることが要件とされていると認められる。このことと、「クリアランスを介して」という文言をあわせ考えると、本件特許発明1においては、外側から内側に向かって、環状枠板部の最も内側の部分、クリアランス、第一回転板の最も外側の部分という順序で、これらの部材が組み合わされるという構成が、特許請求の範囲として記載されているということができる。

これに対し、被告製品1においては、別紙一「物件目録1」のとおり、環状枠板部(底板2のうち選別ケース6の下に入り込んでいない部分)の最も内側の部分(選別ケース6の最も外側の部分の真下に当たる部分)と回転盤3の最も外側の部分とが上方から見て一致しており、後者が前者より内側に位置しているものではない。また、被告製品2においては、別紙二「物件目録2」のとおり、回転盤3の最も外側の部分の方が環状枠板部の最も内側の部分よりも外側に位置している。さらに、いずれの被告製品においても、隙間4は、回転盤3の下側の面と選別ケース6の外側上部の面との間に設けられており、隙間4が回転盤3の最も外側の部分よりも更に外側にあるということはできない。

したがって、被告製品の構成は、構成要件Bのうち、「環状枠板部の内周縁内に第一回転板を」「クリアランスを介して内嵌めし」という構成と異なっているというべきである。

4  以上によれば、被告製品は、本件特許発明1の特許請求の範囲に記載された要件のすべてを充足するということはできない。

5  また、被告製品は、回転盤3が周縁に向かって段を持ちながら下がり傾斜となっているから構成要件Fを充足するものの、前記の点において構成要件Gと構成を異にすることになるから、本件特許発明2についても、その特許請求の範囲に記載された要件のすべてを充足するものではない。

二  争点2(被告製品が本件特許発明と均等であるか)について

1  右一で検討したとおり、本件特許発明1においては、特許請求の範囲に記載された構成中の「環状枠板部の内周縁内に第一回転板を」「クリアランスを介して内嵌め」するという部分(以下「本件相違部分」という。)が、被告製品1における構成(環状枠板部の最も内側の部分と回転盤3の最も外側の部分とが上方から見て一致し、隙間4が回転盤3の下側の面と選別ケース6の外側上部の面との間に設けられている構成)、及び、被告製品2における構成(回転盤3の最も外側の部分が環状枠板部の最も内側の部分よりも外側にあり、隙間4が回転盤3の下側の面と選別ケース6の外側上部の面との間に設けられている構成)と異なっているということができる。

ところで、特許請求の範囲に記載された構成中に他人が製造等をする製品(以下「対象製品」という。)と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成六年(オ)第一〇八三号同一〇年二月二四日第三小法廷判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。

そこで、本件において、本件相違部分の存在にもかかわらず、右の(1)ないし(5)の要件(以下、それぞれの要件を「要件(1)」などという。)を満たすことにより、被告製品が本件特許発明1の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、その技術的範囲に属するということができるかどうかを、検討する。

2  要件(2)について

(一) 証拠(甲二、三、五、六ないし一一、一三、二二ないし二五、乙一、二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、次の記述がある。

ア 産業上の利用分野

「この発明は生海苔の異物(ゴミ、エビ、アミ糸等、以下同じ)分離除去装置に関し、生海苔混合液(生海苔と塩水とを適宜濃度に調合したもの)から異物を分離する際に使用されるものである。」

イ 従来の技術

「従来におけるこの種の異物分離除去装置は、分離ドラムの周壁に所要数の分離孔を設け、前記分離ドラムを軸心を中心として回転させながらこのドラム内に生海苔混合液を供給し、前記分離孔を通過させることによって、前記生海苔混合液中の異物を分離除去していた(特開平6‐121660号)。」

ウ 発明が解決しようとする課題

「しかしながら、かかる従来の異物分離除去装置にあっては、生海苔混合液中の異物をこの分離孔の周縁に引っ掛けて排出口に流れるのを防止するものであるため、当該分離孔の周縁に異物が蓄積し、目詰まりが発生する結果、当該分離除去を能率良く行うためには、目詰まり噴射水によって洗浄するという洗浄装置を別途に設けなければならないという不都合を有した(特開平6‐121660号)。」

「この発明の課題はかかる不都合を解消することである。」

エ 作用

「この発明に係る生海苔の異物分離除去装置は上記のように構成されているため、第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側、即ち、タンクの底隅部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。このとき、第一回転板は回転しているため、前記クリアランスには生海苔が詰まりにくいものである。」

オ 発明の効果

「第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側、即ち、タンクの底隅部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。このとき、第一回転板は回転しているため、前記クリアランスには生海苔が詰まりにくいものである。」

「よって、この異物分離除去装置を使用すれば、異物が前記クリアランスに詰まりにくいため、従来のように目詰まり洗浄装置等を別途に設ける必要がない結果、装置の維持がしやすいとともに取扱いが簡易になり、この結果、生海苔の異物分離除去作業の作業能率を向上させることができる。」

(2) 被告製品においては、タンクに生海苔と海水の混合液を入れて回転盤3を回転させると、混合液に渦が形成され、生海苔と水が隙間4を通過して選別ケース6に流入する。なお、その際、隙間4の幅より小さな異物も選別ケース6に吸い込まれることがある。また、生海苔と異物によって隙間4の目詰まりが起きることがあり、そのような場合には、回転盤3の回転を止め、これを上昇させて隙間を広げ、逆洗ポンプ8により海水を隙間4を通ってタンク内に送り込むことによって、目詰まりを解消させている。

(二) 右に認定した事実によれば、被告製品は、回転盤3を回転させて混合液に渦を形成し(これにより遠心力が発生するので、比重の大きい異物は隙間4の外側に集積するということができる。)、生海苔を水とともに隙間4を通過させることによって、生海苔と海水の混合液から異物を分離除去しているのであって、本件特許発明1と同一の作用効果を奏し、本件特許発明1の目的を達成しているということができる。

(三) この点につき、被告は、前記第二、二2(二)のとおり、被告製品は本件特許発明1と同一の作用効果を奏していないなどと主張している。

しかしながら、本件特許発明1においても、クリアランスの幅より小さい異物(殊に比重の小さいもの)が生海苔とともにクリアランスを通過してしまうことを完全には避けられないものと解されるし、また、回転板が回転しているためクリアランスに生海苔が詰まりにくいとはいっても、混合液中の生海苔及び異物の状況によってはこれが詰まることがあり得ると考えられるから、被告製品において隙間4より幅の小さい異物が選別ケース6に吸い込まれることや、隙間4が目詰まりすることをもって、その作用効果が本件特許発明1と異なるということはできない。また、被告製品が、隙間4に目詰まりが生じた場合に回転盤3を上方に移動させることによってその除去を行い得る点において、本件特許発明1の特許請求の範囲に記載された構成を採った場合に見られない作用効果を果たしているとしても、右の点は、本件特許発明1の作用効果を奏した上で、これに付加されたものにすぎないというべきであるから、これを理由に被告製品の作用効果が本件特許発明1と同一であるとの認定が妨げられるものではない。

したがって、被告の右主張は採用できない。

(四) 右によれば、本件相違部分を被告製品におけるものと置き換えても、本件特許発明1の目的を達成することができ、これと同一の作用効果を奏するものと認められる。

3  要件(1)について

(一) 均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要するが、右にいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的部分、言い換えれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。

すなわち、特許法が保護しようとする発明の実質的価値は、従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための、従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を、具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから、明細書の特許請求の範囲に記載された構成のうち、当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分が特許発明における本質的部分であると理解すべきであり、対象製品がそのような本質的部分において特許発明の構成と異なれば、もはや特許発明の実質的価値は及ばず、特許発明の構成と均等ということはできないと解するのが相当である。

そして、発明が各構成要件の有機的な結合により特定の作用効果を奏するものであることに照らせば、対象製品との相違が特許発明における本質的部分に係るものであるかどうかを判断するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に取り出すのではなく、特許発明を先行技術として対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で、対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか、それともこれとは異なる原理に属するものかという点から、判断すべきものというべきである。

(二) これを本件についてみるに、証拠(甲二、一五ないし一八)によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件明細書に記載された、本件特許発明1が解決しようという課題は、前記2(一)(1)ウのとおりである。

(2) 生海苔と海水の混合液から異物を分離除去するために使用される装置としては、本件特許発明に係る特許出願がされた平成六年一一月二四日当時、次のものがあった。

ア 分離除去のためにクリアランス(隙間、スリット)を利用しない装置としては、長尺の異物除去板を複数設けたもの(実開平六‐六〇三九五、平成六年八月二三日出願公開)が公知であった。

イ クリアランスを利用するものとしては、分離ドラムの周壁に生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を設けたもの(特開平六‐一二一六六〇号、平成六年五月六日出願公開)(前記2(一)(1)イのとおり本件明細書に従来技術として記載されているもの)が公知であった。

ウ 本件特許発明の特許出願の当時公知ではなかったが、これより先に出願されていたものとして、生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の細長い分離孔を有する分離壁を利用したもの(特願平六‐一〇七九二六号、平成六年四月二一日特許出願)、及び、多数の回転ローラーをスリットを介して並行に配置したもの(特願平六‐二一八〇八四号、平成六年八月一九日特許出願)があった。

(三) 右に認定した事実によれば、本件特許発明の特許出願当時の技術水準に照らすと、生海苔混合液からゴミ、エビ、アミ糸等の異物を除去するという、従来技術では十分に達成し得なかった技術的課題を解決するために、タンクの底部に設けた回転板を駆動手段により回転させて、遠心力により海苔よりも比重の大きい異物をタンクの底隅部(なお、底隅部の意義については、前記一2(三)参照)に集結させる一方、回転板と環状枠板部との間の円周状のクリアランスから生海苔をタンクの外部に排出するという構成を採ったことが、従来技術に見られない本件特許発明1に特有の解決手段であるということができる。そうすると、本件特許発明1の中核をなす特徴的部分は、駆動手段により回転する回転板をタンク底部の環状枠板部に僅かなクリアランスを介してはめこんだという構成にあると解するのが相当である。そして、構成要件Bのうち、環状枠板部の「内周縁内に」回転板が「内嵌め」されているという、環状枠板部と回転板との具体的な位置関係に関する部分(すなわち、被告製品と構成を異にする部分)は、これを他の構成に置き換えても全体として本件特許発明1の技術的思想と別個のものと評価されるものではないから、本質的部分には当たらない。

(四) 以上によれば、本件相違部分は、本件特許発明1の本質的部分ではないというべきである。

4  要件(3)について

回転板と環状枠板部(底板)とをクリアランスを介して組み合わせるに当たり、両者の位置関係を、本件特許発明1の構成(環状枠板部の内周縁内に回転板を内嵌めするもの)を、被告製品の構成(底板2の上方に回転盤3が設置されるもの)に変更することは、設計上の微小な点に関する変更にすぎないものであって、これが格別困難なものであるということはできない。

したがって、被告製品の製造時において、当業者は、本件相違部分を被告製品におけるものと置き換えることに、容易に想到することができたというべきである。

5  要件(4)について

(一) 前記3のとおり、生海苔と塩水との混合液から異物を除去するという技術的課題を解決するために、タンクの底部に設けた回転板を回転させ、回転板と底板との間の円周状のクリアランスから生海苔をタンクの外部に排出するという構成を採ることは、本件特許発明の特許出願時において見られなかった技術である。また、本件特許発明1の属する技術の分野における当業者が、右出願時に、これを公知技術から容易に推考できたことをうかがわせる証拠もない。

(二) この点に関し、被告は、回転板の円周の環状スリットを利用した技術は公知であったと主張し、これに関する証拠を提出している(乙三ないし五、一三ないし一七)。しかしながら、右の証拠によれば、被告が公知であったと主張する装置(フルタ洗浄機SJ‐6M型機)は海苔の洗浄機であって、回転板に相当するインペラは単に生海苔混合液を攪拌するだけのものであり、インペラと環状枠板部に相当するインペラケースとの間に環状の隙間があって、生海苔の一部がこの隙間に滑り込んでいくことはあるものの、右の装置においては、隙間から流れ出た生海苔は、汚水とともに流れ出してしまい商品として使用できず無駄になるというのである(乙五参照)。そうすると、右の装置は、回転板の回転により異物と分離された生海苔を回転板の周囲のクリアランスからタンクの外部に排出させて回収するという、生海苔の異物除去装置に関する技術である本件特許発明1とは、技術思想を全く異にするというべきである。

したがって、被告の右主張は採用できない。

(三) 右によれば、右の構成を採る被告製品が、本件特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものであると認めることはできない。

6  要件(5)について

本件において、回転盤と底板の位置関係につき、被告製品における構成を採ることが本件特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的除外されたものに当たるなど、均等の成立を妨げる特段の事情は認められない。

7  以上によれば、被告製品は、本件特許発明1と均等と認められるから、その技術的範囲に属するというべきである。そうすると、被告製品は、前記のように構成要件Fを充足するものであるところ、本件特許発明1と均等であるから構成要件Gをも充足することとなり、本件特許発明2の技術的範囲にも属するというべきである。

したがって、被告による被告製品の製造販売行為は、本件特許権を侵害するものであって、原告は被告に対し、被告製品の製造販売の差止め及び被告製品の廃棄を求めることができる。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 大西勝滋)

(別紙一)

物件目録1

下の図面(囲みの中の4つの図と、その下の拡大図)に示す構造を有するところの「フルタ ダストール FD-380K」および同「FD-380S」、同「FD-380J」ならびに同「FD-380C」、ならびに同「D-1C」、同「D-1L」、同「D-2L」、同「D-2S」、同「D-2K」、同「D4J」、その他の型番の「フルタ ダストール」ならびにこれらと同様の回転板構造を有する海苔異物除去機。

ただし、下の図では回転板が2枚のものが示されているが、他に1枚のものおよび4枚のものがあり、その他回転板の枚数によって限定されるものではない。

(別紙二)

物件目録2

下の図面(囲みの中の4つの図と、その下の拡大図)に示す構造を有するところの「フルタ ダストール FD-380K」および同「FD-380S」、同「FD-380J」ならびに同「FD-380C」、ならびに同「D-1C」、同「D-1L」、同「D-2L」、同「D-2S」、同「D-2K」、同「D4J」、その他の型番の「フルタ ダストール」ならびにこれらと同様の回転板構造を有する海苔異物除去捜。

ただし、下の図では回転板が2枚のものが示されているが、他に1枚のものおよび4枚のものがあり、その他回転板の枚数によって限定されるものではない。

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